過食症 治療

過食症 治療

過食症の嘔吐や下剤乱用をともなうタイプの治療
メンタルクリニックエルデでは、摂食障害の方に対人関係療法(IPT)をお勧めしています。

目次

1.対人関係療法(IPT)が過食症の治療に向いている理由

IPTは患者さんの苦痛になるような食事管理や体重管理などは行わず、過食や嘔吐などの行為を止めさせることを目的にしないで、それらの症状が起こるメカニズムや症状を維持させている構造に注目する治療方法だからです。

基本17回1クールのセッションの中で、患者さんが「いろいろあるけど、自分は何とかやれている」というコントロール感覚を育てていくと、だんだんと症状に頼る必要がなくなり、症状に振り回されることがなくなっていきます。そして、たまにストレスで過食嘔吐してしまったとしても、「たまたまのこと」として受け流せるようになるのです。

この「自分は大丈夫」という考え方やストレス対処のスキルは、過食症の治療のみならず、人生において自分を助けてくれる財産ともなるでしょう。

2.ダイエットと過食症(過食・嘔吐)

ダイエット自体は、現代社会に生きる私たちにとって、身近な健康法、美容法と認識されており、SNSや雑誌などでは、毎日のようにダイエットを勧めるコンテンツが発信されています。何気なく見ているインスタで、スタイルのいい子が、頑張ったご褒美と笑顔でケーキを頬張るストーリーがしょっちゅう流れていたら、自分も!とダイエットにトライしたくなる気持ちも無理はありません。

しかし、ダイエットをきっかけに拒食症や過食症を発症する方達が少なからずいます。いったい、ダイエットを美容の手段と捉えうまく生活に取り入れたケースと、ダイエットの反動で過食や嘔吐を引き起こしその症状が続いてしまうケースの差はなんなのでしょうか?

3.思春期の課題:自尊心やコミュニケーション能力

この差には、その方のパーソナリティを形成する「自尊心」や、ストレス対処スキル、コミュニケーション能力のレベルが大きく関わっており、家族や身近な人との関係性や環境も影響しています。

拒食症も過食症もの発症時期は10代後半から20代で女性が多いのですが、この時期は人生の思春期にあたります。
思春期は、親の支配や保護から離れて、自分自身の価値観や人間関係を築いていく大事な時期です。

私らしさを模索したり、ファッションやメイクにこだわったり、自分はこう思うと主張したり、自分でいろいろやってみて失敗したり成功したりと、さまざまな試行錯誤をくり返し、経験を積み上げながら新しい価値観やセルフイメージを作っていくのですが、このプロセスにおいて重要な要素になるのが「自尊心」です。

例えば、何か失敗してもそれをひとつの体験として受け止め、自分を卑下したり他に責任転嫁しないでいられる「自己肯定感=自尊心」があれば、「次を頑張ろう」と前向きに生きていけるものです。あるいは、自分の力が及ばず世の中の不条理と折り合いをつけざるを得ない際にも、「自尊心」が次のチャレンジの役に立ってくれます。

また、思春期には、子ども時代とは違う人間関係を築いていくわけですが、そのさい重要になるのが、コミュニケーションスキルです。
例えば、自分と他者のあいだに境界線を引いておくことや、「私は」を主語にするアイメッセージをつかうこと等は、健全な関係を育てるための有効なコミュニケーションスキルとなります。

4.不健全なコミュニケーションパターンから新しいパターンへ

過食症で来院された方には、「私は対人関係での問題はないです

「家族とはうまくいっています」と言う方が多いのですが、では「コレはおかしい」「コレは止めてほしい」と思った時に、あなたは相手に対して躊躇なくそのように伝えていますか?と尋ねると、ハッとした様子で「できません」「分かりません」と答える方がほとんどです。つまり、波風立てないように自分が我慢するというコミュニケーションパターンを長らく続けており、かつそれが不健全なパターンであると気づいていなかったということです。

さて、冒頭で述べたように、IPTの治療では症状の減少は後からついてくるものであり、注目し関わるべきは症状を維持させているメカニズムであると考えます。

治療において目指すのは、患者さんが過食嘔吐をおこすときに、誰との間に不健全なコミュニケーションが続いているのか気づくことであり、その相手に自分の気持ちや考えを伝える新しいコミュニケーションパターンを身につけるための援助となります。

仮に、相手が話の通じない人ならば、話したり手紙を書いたりしても、よく理解してもらえなかったという結果になるかもしれません。

けれど、患者さんが今までやっていなかった「コミュケーション」における自分の役割や責任を果たすことに意味があるのです。いろいろ自分はベストを尽くしたけれど、相手側の問題でうまくいかないなら、それはしょうがないと距離を置くのも対人関係のスキルです。

対人関係おいて役に立つ、相手に対する過度な期待や執着を手放すスキルでもあります。

5.最後に

17回のセッションを通して、患者さんが過食嘔吐にいたるメカニズムの理解を深め、もし、すぐにストレス状況を変えられないなら、「もうしばらくは症状に頼るのもアリだなと思えるくらいに主導権を握れるようになってきたら、もう症状に振り回されているとはいえないでしょう。

この、「振り回されない」という姿勢もいろいろ応用が効くストレス対処スキルで、感情に振り回されない、感情を暴走させないという場合にも使えます。

「今までは過食嘔吐があって、やりたいことやすべきことができなかった自分」から「過食嘔吐があっても、それに振り回されず自立していく自分」への変化、成長を、対人関係療法のセッションを通して経験していただけたらと思います。

監修者

院長 坂本誠

坂本 誠
メンタルクリニックエルデ 院長

<資格>

医学博士
精神保健指定医
日本精神神経学会 精神科専門医
コンサータ・ビバンセ登録医師
ドイツ精神神経学会(DGPPN) 認定医師
ドイツ対人関係療法学会(DGIPT) スーパーバイザー 

<対人関係療法に関する研究>

国際対人関係療法学会 アムステルダムでの発表
ドイツ精神神経学会 ベルリンでの発表

<対人関係療法における著書>
トラウマセラピー・ケースブック 症例に学ぶトラウマケア技法
PART 8 対人関係療法(IPT) 星和書店

対人関係・社会リズム療法でラクになる「双極性障害」の本
治療の基本と自分でできる対処法 大和出版

<経歴>
聖マリアンナ医科大学病院神経精神科
医療法人社団 丹沢病院  医局長
ドイツ ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク 老年精神科客員医師
誠心会 神奈川病院 医長
メンタルクリニックエルデ 開設

目次